
『サブイボマスク』のキャッチコピー「歌ってる場合かー!」は不倫騒動の後だと別の意味に聞こえますね。
年に数回だけど、以下の様な脳内やり取りをやっている。
「この映画はいったい誰が観に行くんだろう………そういうばそういう企画を俺がやっているんだよね。ってことは俺が観に行かないと!」
『サブイボマスク』もそんな脳内やり取りして観に行ったら、意外と面白かった。「ファンキー加藤ってウザいよね」という世間一般の認識を逆手にとったギャグが秀逸だった。
これよりストーリー解説
主人公の設定
- ファンキー加藤演じる主人公は、かつてロックバンドのボーカルをやっていた。ゴリ押しでテレビ進出したファンキー加藤は、ウケると思って放送禁止用語を連発して放送事故発生。故郷に帰る羽目になる。
- ファンキー加藤はシャッター商店街でマメカラを使ってライブやっていた。観客は1~3人。ファンキー加藤は歌を通じてみんなに「ガンバレ!」とメッセージを伝えていたが、「いやさ、オマエがガンバレよ」と逆に説教される始末。
- 公開初日の土曜日、世間はファンキー加藤の不倫騒動で盛り上がっていて、映画館の中はガラガラ。そういう状況で「いやさ、オマエがガンバレよ」と出てきたので、最高に面白かった。
衰退した町
- 主人公の故郷の名前は「道半町(みちなかばまち)」。町に若者がおらず完全に衰退しており、消滅可能性都市に認定寸前だ。県知事はこの町をダム計画で潰そうとまで考えていた。
- 道半町の役所には生活保護の受給を求める人がいっぱい。就職するように指導されたシングルマザー(いとうあさこ)は、小学生の娘の前で激昂して窓口でキレまくっていた。就職したくてもそもそも職がない。
- 車で1時間離れた場所にショッピングモールの誘致に成功した街があった。道半町の町民たちは買い物も就職もすべて1時間離れたショッピングモールに行く。
- ファンキー加藤は町おこしのために街コンを企画する。しかし街コンをしたくても居酒屋はすべて撤退していた。
ゆるキャラグランプリ
- 県内でゆるキャラグランプリが行われた。ファンキー加藤は道半町の町おこしのために、異様にクオリティの低いゆるキャラ「笑顔くん」で出場して大失敗。隣町のゆるキャラ「長ネギくん」の中の人が慰めてくれた。
- 長ネギくんの正体はやはり町おこしのために活動する役所の公務員だった。
- 長ネギくんが、ゆるキャラグランプリの裏事情を教えてくれた。優勝は最初からショッピングモールのある街で決まっていたのだ。審査員長の県知事は謝礼としてショッピングモールの商品券を大量にもらう。
町の登場人物たち
- 東京でモデルをしていたユキ(平愛梨)は、夫に浮気されて離婚。幼い娘と一緒に故郷の道半町に戻ってハローワークに行く。ユキの娘は田舎にサイゼリアが無いことを驚く。
- ユキは自分が東京でモデルだったことを自慢していた。しかしユキのモデル仕事とは尿漏れパッドの広告だった。ハローワークの窓口の男が、ユキの名前でググると尿漏れパッドの広告が出てきた。
- 道半町の若者は単独暴走族だった。彼は「盗んだバイクで走り出す」と主張しているが、そのバイクはバイトして買ったものだとみんな知っている。
- そしてファンキー加藤の弟分は自閉症の小池徹平だ。彼はサブイボマスクのファンだった。
サブイボマスクとは?
- ファンキー加藤の父親(武藤敬司)は地元の英雄的存在の覆面レスラー:サブイボマスクだった。
- 父は車に轢かれそうになった老婆を助けようと車道に飛び込み、見事老婆を助けてカッコつけていたところを別の車に轢かれて死んだ。
- 息子であるファンキー加藤はサブイボマスクになって町に笑顔を取り戻そうとする。
サブイボマスクで町おこし
- ユキはYOUTUBEを使ってサブイボマスクの動画を流す。再生回数は111回で、そのうち60回はファンキー加藤が自分で見返した回数だった。
- ユキはニコニコ動画を使ってサブイボマスクを宣伝しようとする。ファンキー加藤は「ニコニコ動画ってみんなが笑顔になれるいい名前じゃないか!」と感激するが、非難のコメントが殺到。「ニコニコしてないじゃないか!」と嘆く。
- そんなこんなで、ようやくサブイボマスクがウケ出して商店街に活気が戻ってきた。ウケているのにYOUTUBEの再生回数がどれも3桁なのが妙にリアル。
ここからネタバレです
町おこし成功
- 商店街が活性化したため、町内にも就職先が出来る。そのため働く必要が出てきた生活保護受給者がサブイボマスクに怒り出す。
- 道半町の活性化に喜んだ県知事が、サブイボマスクのライブを見に来る。
- ファンキー加藤はライブ中に県知事への「ありがとうコール」を呼びかけて盛り上げる(ファンキー加藤の胡散臭さと政治が結びつく名シーン!)。そして県から支給される補助金は大幅に増額となった。
偽サブイボマスクとラストシーン
- しかしサブイボマスクの犯行を匂わせる空き巣や放火が発生し、サブイボマスクは町の信頼を失う。
- ファンキー加藤は偽サブイボマスクを捕まえる。偽サブイボマスクの正体は「長ネギくん」だった。
- サブイボマスクが成功したことにより、逆に長ネギくんの町がヤバいことになってその逆恨みだったのだ。
- 警察に連行される長ネギくんは「本当の町おこしってのは、老人が消えることなんだよ!」と叫ぶ。
- ファンキー加藤はそんな長ネギくんを抱きしめて「老人は尊敬すべきだ!オマエが罪を償ったら俺と一緒に活動しよう!」と叫ぶ。 これがラストシーン。
このストーリー解説は思いっきり省略していて、話のメインは人間ドラマ。そこらへんは実際に観てほしい。
もしくは柳下さんのサイトで詳しく解説している。
www.targma.jp
面白かったところ
ファンキー加藤の胡散臭さを逆手に取っているのが良かった。ファンキー加藤の自宅に松岡修造のポスターや、相田みつを風の詩が貼ってあるというは笑ったよ。
主人公が熱く夢を語るシーンは必ず主人公を貶めるようなギャグを入れていた。警官に捕まりながらサブイボマスクの夢を語るシーンとか。胡散臭さが帳消しになる上手いテクニックだ。
悪かったところ
前半は地方衰退コメディとして面白かったけど、後半になるとこの映画の老人愛が鼻についてくる。
「町を荒らすのは若者たちでそれに迷惑するのは善良な老人たち」
という構図を今どきやるのに驚いた。現代的な構図だったら
「町を牛耳って地方停滞に一役買っている老人たちと、それに縛られる希望なき若者たち」
にすべきだと思う。そういえばイギリス映画だけど『ホット・ファズ』がそういう物語だった。*1
ギルバート・グレイプと違うところ
『サブイボマスク』の監督は「ギルバート・グレイプの影響を受けている」と説明している。確かに設定が近い。田舎町の雑貨屋に務める主人公、自閉症の弟、大型ショッピングモールによる衰退などが『ギルバート・グレイプ』と同じだ。
で、今から『ギルバート・グレイプ』と『サブイボマスク』の両方のネタバレを書く。
『ギルバート・グレイプ』のラストは
「親の死体を家ごと焼いて、田舎町を出て旅に出る」
というもので、開拓精神のあるアメリカ映画らしいラスト。それに対して同じ設定の『サブイボマスク』のラストは
「田舎の老人たちと笑いながら一緒に生きることを選ぶというもの」
という日本社会にマッチしたラストだった。このラストシーンは爽やかに描かれていたけど(もちろんファンキー加藤のポシティブソングがガンガン鳴っている)、大量の高齢者を抱えながら沈みゆく日本の姿が読み取れるラストシーンだった。
*1:そしてEU離脱投票も若者VS老人の構図があった